(45)仏教各宗派の比較

実は、宗教の統計数値に事実を反映したと見られる信頼できる実数を示すデータはありません。各宗派が持っている信者数でさえ何らかの意思が反映された数値だと考えられます。
以下の数値は概数です。

文部科学省の宗教統計(H17年)

                       信者数(万人)     宗教団体数
神道系       10,700          88,585
仏教系        9,800          96,368
キリスト教系       300             9,376
その他        1,000           39,542
合計        21,102           223,871

(日本の人口の2倍弱)

新宗教(公称数であり実数は不明)

団体名         信者数(万人)
・創価学会(法華系)           1,800
・立正佼成会(法華系)           429
・霊友会(法華系)              158
・仏所護念会(法華系)          150
・富士大石寺顕正会(法華系)      140
・天理教(独立系)             220
・幸福の科学(独立系)           150
・出雲大社教(教派神道)                    126
・生長の家(大本教)            212
・世界救世教(大本教)                           84
・PL教団                                            118

文化庁編『宗教年鑑』(H19年版)「13宗」

                            宗派数   信者数(万)       寺院数
<奈良>
・律 宗(鑑真)       1         13                  115
・法相宗(道昭)     1        不明                 29
・華厳宗(良弁)       1                  4.4               58

<平安>                                                    ・天台宗(最澄)        19         315       4,446
・真言宗(空海)          57         1,265      12,517

<鎌倉>
・浄土宗(法然)        5          647       8,152
・浄土真宗(親鸞)    20         1,273      20,927
・日蓮宗(日蓮)       44               1,722        6,937
・臨済宗 (栄西)      15             8       5,726
・曹洞宗(道元)        1          156       14,687
・時宗(一遍)         1              5.9         412
・融通念仏宗(良忍)     1                     12.5         356

<江戸>
・黄檗宗(隠元)       1           35               460

明治5年の壬申戸籍の総人口は33,110、825人です。今日の人口1億2千万人のほぼ4分の1です。
明治維新によって布教活動を活発に行った教団は日蓮宗系とキリスト教です。
しかし、キリスト教には日本文化に大きな影響を与えるだけの力はありません。
日本の仏教宗派は「13宗56派」といわれます。宗は大きな教団で、派は宗内のグループです。

日蓮宗系は布教が許されるようになった明治・大正・昭和にかけて急激に信者数が増えた教団です。
正確な統計数値はありませんが、.幕末の頃の実数は現在の信者数の2割程度だったのではないかと推定されています。日蓮系は歴史があっても大多数の信者は明治以降の新しい入信者です。

この数字を見れば、信者数と寺院数のバランスから見て存在感を示しているのは真言宗、日蓮宗系、浄土真宗と非僧の新興宗教団体だけです。
伝統的な真言宗に存在感がある外に、日蓮宗系と浄土真宗の爆発的な信徒の増加が一目瞭然です。
この真言宗、日蓮宗系、浄土真宗の三つの勢力が拮抗しています。

しかし、鎌倉新仏教が今日のような教勢拡大ができた時期の大半は明治、大正、昭和期(戦時の国家統制時期を除く)のことです。
統計資料はありませんが、布教は権力者が警戒しない、警戒できない時期に集中したものと考えられます。日蓮宗の寺院の増大や信者の獲得は昭和の終戦後に急増したものが大部分という特徴があります。

日蓮宗系の飛躍の原因は、日蓮宗(身延派)は新興宗教団体の霊友会と立正佼成会の活躍によるものです。
日蓮正宗(富士の興門派)の驚異的な巨大化は創価学会の活躍によるものです。

戦後、日蓮宗系各派には熱心な信徒が中心になって数々の新興宗教団体を創立しました。
日蓮宗系各派の急激な拡大の主役は熱心な信徒によるものでした。その布教活動は、はほとんど信徒の講組織の手によって行われたものであり、僧侶の仕事でなかったことが大きな特徴です。

新興宗教団体の布教拡大は、簡単に言えば、理証よりも現証であり、教義よりも現世利益が大事ということです。新興宗教団体は現世利益の旗手となり、様々な現世利益の体験と見聞を語り、多くの信者を獲得し妄説も生みました。
戦後の新興宗教団体の発生や肥大化は仏教史上でも例が無く未曽有の出来事でした。新興宗教団体に支えられた既存の教団は予想外の成果を享受することが出来ました。

日蓮宗系の各派は、数百年の長きにわたり、権力から布教活動を抑え込まれてきた教団です。敗戦後の新憲法の下で、信教の自由を最も効果的に享受してきた宗教教団です。
布教活動を熱心に実行した信者の大半は、戦後、新たに入信した活動家であり、江戸時代以前の檀家の子弟が活躍した話は聞いたことがありません。

浄土真宗は、戦国時代から一向宗として、戦国大名や、織田信長、豊臣秀吉の軍勢と戦った猛者の流れを汲み、信徒の講組織が強力で権力に屈することなく独自の布教活動を行いました。

浄土真宗は幕府権力から格別な恩恵を受けることなく、庶民の中に浸透し、庶民の手で全国に多くの寺院を建立してきました。信者数と寺院数が圧倒的に多い理由です。浄土真宗は庶民の宗教です。

浄土真宗の特徴は、信者を差別しなかったことだといわれます。江戸時代は身分差別の厳しい時代でした。宗教者でありながら、ほとんどの宗派が被差別民を差別した記録があります。
ちなみに、寺院がする差別の典型的なものは「戒名の差別」です。字が読めれば誰が見ても差別と解かる字を戒名の中に書きました。当時は字が読めない人が一般的でした。後世まで差別に気付かない人もいたと考えられます。

浄土宗は、法然によって立宗され、元々は庶民の中に布教してきた宗派でしたが、徳川家と格別な関係を持つことで、徐々に庶民感覚から離れて行きました。
寺院数と信者数が少ないのは、寺院の性格が変わったからです。浄土真宗の攻勢に対抗できる機動力が無かったと考えられています。
徳川家の菩提寺である芝・増上寺を持つ宗派となり、天台宗の上野・寛永寺と将軍家の寵愛を争いましたが、将軍や家族の墓所を交互に受け持つ取り決めを天台宗に認めさせる力がありました。
将軍家の菩提寺になることによって、庶民感覚を消失していったものと考えられています。

禅宗は、信者数と寺院数が特にアンバランスです。
禅宗がどのように教勢を拡大してきたのかがよくわかります。
禅宗は大名、武士層の庇護で躍進した宗派であることが一目瞭然です。
巨大な寺院を多数所有しているわりには信徒数の伸びが完全に止まっています。
禅宗の眼は庶民に向いていなかったことが一目瞭然です。

庶民の中に浸透していないのに何故今日のような文化的な貢献ができたのでしょうか。
禅宗の発展は武士層の厚い支持によるものです。信者数が少ないのに、多数の寺院伽藍が維持できるわけがありません。裕福な武士層の庇護が無ければ生き残るのは困難です。
書、絵画、詩文、茶、花、武道、など多数の諸文化に影響を与えられたのは、事実上の支配階級であった武士の支持のたまものです。

禅宗は独自の文化を育て、人々の審美眼や価値観に多大な影響を与えました。文化功労者です。
しかし、禅文化の特徴は支配階級の武士層に定着し、徐々に庶民の中に浸透して庶民の価値観を変えた不思議な力のある文化です。
禅文化は、支配階級の価値観が上から下に向かって庶民に伝播した典型的な武士文化です。
本来の庶民感覚を考えれば、自然に「わび」「さび」の世界に関心が向くなどとは考えられません。
庶民感覚はもっと現実的な生活密着型の生活実感にあふれたものであるはずです。

今日、諸外国で受容された禅文化は、日本文化として評価されたものであり、一宗の固有文化として受容されたわけではありません。禅は日本文化としての評価なのです。
今後、教団としての禅宗には、信者の獲得に熱心でなかったことが影響する事態が考えられます。

現代社会では観光事業や奇特な篤志家を集めやすい伝統の大寺院を除けば、今後、信者数が少ない末寺院の生き残りは困難を極めるものと考えられます。
この結果は、曹洞宗よりも臨済宗の方に顕著にでるものと考えられます。

奈良の南都六宗は元来より信徒の獲得に熱意が無く、学問の研鑽が中心でしたが、現代もこの傾向性が強く、寺院の収入が観光事業に依存していることが一目遼前です。
しかしその存在意義は失っておらず健在です。

天台宗は、他宗に誇れる伝統を持ちながら、寺院数と信徒数が極端にアンバランスです。
日蓮宗系の信徒獲得の嵐の前に埋没してしまったのでしょうか。
または、老舗の看板の使い方が分からず、教勢拡大の意欲を消失したのでしょうか。元気を出して頂きたいです。

真言宗は、寺院数と信徒数のバランスが比較的にいいと考えられます。
宗派数が他宗に比較して多いようですが、日蓮宗のような教義の違いによる分裂ではありません。
真言宗の分裂は、1140年、高野山の荒廃と再興を巡る見解の相違が解決できず古義真言宗と新義真言宗(覚鑁)に分離したことがあります。
しかし、早い段階で協調路線を取って団結しています。